茫洋茫洋

高校生の頃、現国の授業で先生が「これは余談ですが」と話してくれたことが、ずっと心に残っていました

自分がその場所に立つとは、そのときは夢にも思わなかった


去年のことですが、鎌倉に行ったとき
今までに人から聞いたり、本を読んだり、テレビ番組を見たりして、記憶に残っていたたくさんの場所を歩きまわりました
そのうちのひとつが、ここ

「鎌倉比企ケ谷妙本寺境内に、海棠の名木があった。」(小林秀雄著「中原中也の思い出」より引用)

小林氏と中原氏がともに眺めた海棠の名木は、今はもう朽ち果ててしまいました
その子孫にあたる海棠が残っているとのこと

若い日の確執と8年に渡る絶縁状態の後、中原氏が亡くなる年の晩春の頃に、二人は
満開の海棠が散ってゆくのを、石に座って黙って見ていました
そして、和解とも、ゆるしとも、あきらめとも、なんともいえない言葉を交わすのです

文章のもつ力には、驚かされることが幾度となくあります

『考えるヒント 4』に含まれる「中原中也との思い出」は、すごい文章だと思います

その時その場の情景が見えるような、自分がその場所にあたかも居合わせるような錯覚を思い起こす
行間に含まれるものを手探りで探してしまう

そんな文章です

高校生の頃、この場所を訪れることになるとは夢にも思わなかった

今は、また少し違う思いで、この場所を思い出します


暮れ方の境内には、猫さんがたくさん集まって来て、猫の集会を開いていました

円陣組んでる様子に、ちょっと笑っちゃった