しあわせのシッポ 29.7% 10162歩

小さい頃、大晦日になると、近所の天ぷら屋さんにだし巻き卵を買いに、おつかいに行くのが私の仕事でした

駅まで徒歩1分の町っ子だったので、子どもが歩ける範囲に商店街も百貨店も公園も図書館もありました(学校は遠かったなあ)

商店街の小さなアーケイド街の一番手前が、私が大好物だった卵巻きを焼いていた天ぷら屋さんでした
魔法のような速さでだし巻きをこさえていく無口なおじさんと、バーバママみたいなどーんと迫力のあるおしゃべり好きなおばさんが夫婦二人で営む天ぷら屋さんは、不思議なんだけど、天ぷらよりもだし巻き卵が評判でした
でも決して「だし巻き屋さん」ではなかったんだなあ

大学生くらいになるまで、ずっと大晦日のおつかいを続けていたのですが、いつもおばさんは私が買う卵巻きよりも、もっとたくさんの天ぷらのオマケをつけてくれるのです
小さい頃は、きっと「おつかいえらいねえ」という意味だったと思うのですが、私が大きくなってからもいつもオマケをつけてくれました
千円にも満たないおつかいに、げそや鶏のから揚げをオマケしてもらって、子ども心にも「申し訳ないな、おばさんたちはちゃんともうかってるのかな?」と心配してました
(余計なお世話ばかり焼いている子どもでした。今でもか^_^;)

たしか私が町を離れていた大学生の頃に、アーケイド街は火事で消失してしまいました

年越しで帰省していて、最後に行ったおつかいのとき、いつもは無口なおじさんが
「朝から何百本と卵を巻いてたら、手がだるうわ〜」
と苦笑いしながら言って、おばさんが豪快に笑いながら
「稼ぎ時やで、がんばってちょーだあせ」
三人で笑った覚えがあります

お店がなくなってから、おせち料理に何度も自分でだし巻き卵を焼いてみるんだけど
おじさんのだし巻き卵には到底かなわない

いちばん好きなのは、だし巻き卵のシッポ
両端にしかないから、早くしないと食べられちゃう
はじっこ好きは、海苔巻きでも同じです

ここが食べられると、それだけで満足
我ながら単純だなあと思うけど、しあわせな気分になれます

ああ、でも
おじさんのだし巻き卵を、もう一度だけでいいから食べたいなあ


本日の読書


これを初めて読んだとき「あ!」と思わず心の中で叫んでしまった
はじっこ好きがここにも
はじっこ同盟を作りたいくらい

父の詫び状 (文春文庫 む 1-1)

父の詫び状 (文春文庫 む 1-1)

『海苔巻の端っこ』という随筆が入ってます