教え給へしうた

昨日からずっと思い出している一編の詩



私が歌うわけは
いっぴきの仔猫
ずぶぬれで死んでゆく
いっぴきの仔猫
私が歌うわけは
いっぽんのけやき
根をたたれ枯れてゆく
いっぽんのけやき
私がうたうわけは
ひとりの子ども
目をみはり立ちすくむ
ひとりの子ども
私が歌うわけは
ひとりのおとこ
目をそむけうずくまる
ひとりのおとこ
私が歌うわけは
一滴の涙
くやしさといらだちの
一滴の涙


『私が歌う理由(わけ)』谷川俊太郎 より

命に軽いなんてものはない
どんなときも、どんなものにも